日々、教壇に立つ先生が考え、思っていること。口にしなかった、できなかった言葉はやがて文字になり、一冊の本という「かたち」になりました。『高校を考える、29のエッセイと48冊の本』は私家本ですが、多くの先生方に読まれてたいへん好評です。著者の千野さんに完成1カ月後の感想をうかがいました。(聞き手 百年書房・藤田)
1972(昭和47)年、山梨県生まれ。北海道大学大学院を卒業後、新聞社勤務を経て、2001(平成13)年より山梨県公立高校の公民科(倫理)教員。
『高校を考える29のエッセイと48冊の本』のカバー。誠実な内容とリンクした、学校をイメージした落ち着いた装丁になりました。
- ―――
- ご本が完成してから一カ月がたちました。いかがですか?
- 千野
- かたちにして良かった、本にして良かったなっていうのがまずあります。ただエッセイによってはうまく展開できなかったなっていう文章もいくつかあるのですが。そんな反省と、納得できた部分と…つたないところはありますけど全体として満足はしています。
- ―――
- ちょっと聞き方が難しいのですけれども…後悔はしていませんか?
- 千野
- 後悔はありません。作って良かったと思っています。私がいまの時点で思ったり、考えたりしたことは、ある程度は表現できたかなと思います。
- ―――
- それは素晴らしいことです。
- 千野
- いまのところ誤植も見当たりませんし(笑)。
- ―――
- いまのところは…あとが怖いです(笑)。ご本が完成したときに、アンケートのようなものにお答えいただいて「85点」というかなり高い点数をいただきました。こちらに気を使っていただいたと思うのですが(笑)。
- ―――
- 「でも書きたいのだ」っていう箇所がね、すごくいいと思ったんです。全編を通して「書きたい」という熱が伝わってきます。ところで、本文の中で日付が入っていていちばん古い原稿が平成19年です。
- 千野
- そうでしたか?
- ―――
- えぇ。PTA新聞に掲載された原稿だったかな。
- 千野
- はい、そうでした。
- ―――
- 平成19年から原稿を書きはじめて…「本にまとめたいな」と意識しはじめたのはいつ頃でしたか?
- 千野
- 5年以上前から頭にあった気がします。
- ―――
- そうすると、文章を書きはじめた当初から「本にまとめる」という意識があったわけですか?
- 千野
- いずれは一冊の本にまとめたいっていう気持ちはありました。
- ―――
- ふと思ったとかではなくて、書きはじめから意識していたわけですね。全編を通して、テーマ的にもそろっていますものね。
- 千野
- はじめはテーマのないエッセイ集を書くつもりだったのですが、書きすすめていくうちに自ずと「高校」とか「教員」っていうテーマが浮かび上がってきたので、あとは意識的にそれに沿ったテーマを選んでいきました。
- ―――
- テーマもそうですが、立ち位置がしっかりしています。一冊を通してぶれていないというか、芯があるというか、読ませていただいていてそこらへんがすごいなって思いました。本を作ろうと思った動機は何だったのでしょう?
- 千野
- 単純に本が好きで、読むのも好きなので、一冊くらい自分の本があってもいいかなっていう気持ちに自然となっていきましたね。いろいろな本を読んでいるうちに。
- ―――
- なるほど。前からあった?
- 千野
- けっこう前から漠然とありましたね。
- ―――
- ご本の中で紹介されている、千野さんが影響を受けた本の延長線上に、この本ができあがったというのが、何となくわかるような…そんなラインナップです。
- ―――
- 付録に「山梨県・長野県高校教員人事交流のこと」という番外編?がついています。エッセイとは趣きが少しかわって、はじめて拝見したときは正直違和感もあったのですが…。
- 千野
- これは長野県(山梨県と長野県の教員交流)に行った直後に(レポートとして)残したんですよね。これをどうにかちゃんとしたものにしておきたいという思いがあったのも、本を作ろうとした動機のひとつです。
- ―――
- なるほど。
- 千野
- それに長野に行ったことが「高校を考える」ひとつのきっかけにもなったんですね。
- ―――
- はじめにあった違和感も「高校を考える…」というテーマで一冊の本になってみると、とてもしっくりきています。同じ高校でも、県によってこんなに違うなんて全然知りませんでした。
- 千野
- そうなんですよ。
- ―――
- 先生ご自身も、実際に経験しないと知らないままだったりするのではないですか?
- 千野
- そうかもしれません。それを残しておきたいという思いも強かったです。
- ―――
- 完成したご本を配った評判というか、読んだ方からいただいた感想はいかがでしょうか?
- 千野
- 見ていただきたいものがあります(ブログをプリントしたものを取り出して)。
- ―――
- 山梨にある出版社を主催している方のブログでご本が紹介されたんですね。
- 千野
- 私に、雑誌に書かないかと声をかけてくれた出版社です。
- ―――
- ご本がきっかけになって、地元で発行されている雑誌に書かないかと声がかかったんですよね。(ブログ内で)すごい応援されているじゃないですか。
- 千野
- 嬉しかったです。本を送った直後に載せてくれたみたいです。1カ月ほどたってから気がついたんですけれども。
- ―――
- ご本を作ったことで、こういう広がりができる場合ってありますよね。たとえば他に、久しぶりの人と連絡をとりあうようになったとか、ありましたか?
- 千野
- そうですね。疎遠というほどではないですけど、年賀状しかやり取りをしていなかった人に送ったところ、感想を手紙で送ってくださったりして、つながりが強くなったというか濃くなったというのはあります。
- ―――
- まず100部作られたわけですけれども、その100部はどういう経緯をたどりましたか?
- 千野
- 30部くらいを親にわたして、それから…友人知人、そして生徒に配って…終わりましたね。
- ―――
- 生徒さんには何部くらい?
- 千野
- 7、8部ですね。
- ―――
- クラスが30何人で7、8部だと、ちょっと少ない気もしますが …どういう渡し方で?
- 千野
- 「欲しい人には10割引き」って言ったんですけど(笑)。
- ―――
- 10割引き!?
- 千野
- えぇ、タダですけれども(笑)。
- ―――
- タダなら一応もらっておこうとなるはずですが(笑)、千野さんは奥ゆかしいからあまり勧めなかったんでしょうね。
- 千野
- まぁ一言二言…(ぼそぼそっと)。
- ―――
- 感想はいかがですか?
- 千野
- まだ聞いていないんですけど、朝読※のときに読んでいるのは見かけましたね。
- ―――
- とても読みやすいですから、朝読にはいいですよね。
- 千野
- でも、生徒にとってはちょっと難しいかな。
- ―――
- 難しいですか?
- 千野
- エッセイによっては読みやすいですが、学問的なところはピンとこないんじゃないかと思いますね。
- ―――
- そうすると、生徒さんが読者対象ではないのでしょうか?
- 千野
- 帯のキャッチコピーがいちばん自分の思いを表していると思います。
- ―――
- 同業の、先生を意識しています。
- 千野
- そうです。付録にしてもそうですね。しいて言えば、ですよ。いちばんはやはり、そのときに自分が思ったことをかたちにして残しておきたかった。
- ―――
- とても素敵なご本として、かたちに残ったと思います。このたびはありがとうございました。
- 千野
- どうもありがとうございました。
高校の教員になって10年ちょっとの者が、高校についての本を書くなどおこがましいのは百も承知である。でも書きたいのだ。高校がどんな場所で、高校教員がどんな職業なのかを。論文ではなく、エッセイの形式で書きたい。モンテーニュの『エセー』を持ち出すまでもなく、エッセイとは本来、身近な雑事を書くものではなく、試論という意味である。ここでは、この本当の意味で、高校についての「エッセイ」を書きたいと思う。
(はじめに、より抜粋)
巻末「高校を考える48冊のリスト」 より一部抜粋
○『歴史意識に立つ教育』上原専禄(国土社)
○『日本の教師に伝えたいこと』大村はま(ちくま学芸文庫)
○『自分の中に歴史を読む』阿部謹也(ちくまプリマ—ブックス)
○『未来への記憶—自伝の試み—』上下巻 河合隼雄(岩波新書)
○『禅仏教—根源的人間』上田閑照(岩波書店)
○『本の本』福岡哲司(山梨ふるさと文庫)
○『どくとるマンボウ青春記』北杜夫(新潮文庫)
○『旧制高校物語』秦郁彦(文春新書)
※主に「高校」「先生」「教育」をテーマにした書籍48冊が紹介されている。
○人事交流で印象に残ること、感想
長野県の高校の方がよいと思ったこと
・クラス編成が習熟度別でないこと(山梨では習熟度別、文理別が普通)。
・担任を3年やったら次の1年は必ず担任を外れること(山梨では若いうちは連続)。
・担任の年齢層が広いこと(50代の担任は味があります)。
・研究室が機能していること。
山梨県の高校の方がよいと思ったこと
・組織が機能的である。特に教務係の機動力はすごい。
・各クラスにテレビとパソコンがおかれるなど情報機器がそろっている。情報の助手がいて、ホームページや情報機材の管理をしている。
・副担任、副顧問がある程度機能し、教員が互いに助け合う点。
(付録「山梨県・長野県高校教員人事交流のこと」より一部抜粋)
高校と教師、このままでいいのだろうか?
(帯文のキャッチコピー全文)
※朝読=「朝の読書運動」の略。多くの小中高等学校において、読書を習慣づけるために始業時間前に10分程度、読書の時間を設けている運動。
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