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インタビュー 本屋Readin' Writin'店主・落合博さん

私家版のため、書店で扱われることは(滅多に)ない百年書房の本。そんなレア本(?)をこっそり扱う本屋さんが台東区寿(最寄駅は銀座線田原町)にあります。2017年に新聞社を退社して本屋「Readin' Writin'(リーディン・ライティン)」を開店した、異色の店主・落合博さんにお話をうかがいます。こだわりは、その店名に隠されていました。

落合博さん

1958年生まれ。読売新聞大阪本社を経て毎日新聞社に入社、スポーツを中心に記事を執筆。2011年からは論説委員(体育・スポーツ担当)を務め、2017年に退社。同年4月、台東区寿に本屋「Readin' Writin'」を開店。著書に『こんなことを書いてきた スポーツメディアの現場から』(創文企画)がある。

「場」としての本屋

―――
どうして新聞社から書店経営者に転身しようと思ったのですか?
落合
もともと本に囲まれる空間は好きではありましたが、実は本屋でなくてもよかったんです。何がいいかな?と思ったときにご縁もあって始めたのが、たまたま本屋だったというのが正直なところです。3年くらい前かな、何か店をやろうと考え始めたと思います。
―――
たまたま!?
落合
極端な話、雑貨屋でもよかったんです。「ライティング(=書くこと)」を教える雑貨屋さんはなかなかないと思いますし。ライティングだけは外せない部分でした。
―――
落合さんのこだわりは「書く」なんですね。私が取材してもらったとき※1にはすでに独立を考えていたんですね。
落合
結果的に本屋を始めたことで、みんなが集まってくる「場」を持てたということは、思いのほか幸運だったと…しみじみ実感しています。

「書く」ことへのこだわり

―――
これほど多くの人が文字を読み書きすることは歴史上なかったと思います。何かを「伝える」手段としては写真も、映像も、インターネットもあります。では紙の本にまとめる文章はどうあるべきか?などと少し真剣に考えてみますと…
落合
僕はそこまで深くは考えていなくて、もっと気楽に、思ったことを文章にしてというスタイルではありますが、まぁ新聞も本もオールドメディアですよね。個人的には大好きですが、この先どうなるのか? ライティングを指導しながら、そこらへんも一緒に考えていくことにはなると思っています。よく言われることですが、僕も新聞や本がなくなることはないと思っていますし、もっと気軽なライティングかな。
―――
私も希望される著者さんには文章の「書き方指導」をしているのですが、落合さんは元新聞社論説委員でいらっしゃいますから…指導は厳しそうですね。
落合
そんなことはありません(笑)。まずは基本的なことからです。
―――
実際にライティング指導をしたのはこれまでに何人くらいですか?
落合
店を始めて間がないこともあってなかなか時間がとれず、現在のところ延べ10人くらいかな。
―――
指導はどういうふうに?
落合
まず課題を出して、それにそって書いてきてもらいます。これに僕が赤字を入れる。出来不出来は人それぞれ。まだ試行錯誤の段階ですね。人数をこなしていくと何かが見えてくるという予感はあります。
―――
手ごたえみたいなものはある?
落合
いまのところ全然ありません(笑)。楽しくやっていればそのうち見つかるのではないでしょうか。ただ、「こういう指導をやっている」と新聞などで紹介※2されたりすると、問い合わせはあります。潜在的に「書きたい」と思っている人は多いはずなので、その掘り起こしができればいいなと思っています。

「書く」の先へ

―――
昭和50年代の八王子に、橋本義夫という人がいまして。
落合
はい。
―――
ずいぶん前に亡くなっているのですが、この人が「ふだん記運動」という文章書きの民間活動をしていたんです。それこそバスの運転手さんや寿司屋の主人、郵便局員さんとか、さまざまな人に指導して文章を書いてもらい、「ふだん記文庫」「ふだん記新書」というシリーズ本になって、八王子の図書館にずらりと置かれているんです。
落合
それはおもしろいですね。文集ではなくて、個人の本になって?
―――
多くは薄い本ですが、各々が個人の本としてまとまっています。全部で500巻以上あると思います。この「ふだん記運動」というのが百年書房の目指している方向にも重なっていて目指すところではあるんですけれども、実際はなかなか難しく…落合さんの話を聞いていて、橋本さんのことが頭に浮かびました。
落合
興味ありますね。確かに近いところもあるかもしれない。
―――
Readin' Writin'で落合さんが添削した原稿が、やがて百年書房で本になる、ということもあるかもしれません。
落合
なるといいですねぇ。
―――
Readin' Writin'の短中期的な目標はありますか?
落合
まず人を雇いたいですね(笑)。いまその余裕はありませんが、そのうちに。「場」がある分、この「場」にいなくてはいけないというジレンマというか、ちょっと苦しい部分もあります。外に出る時間がないのが悩みです。
―――
落合さんにはいつもここにいてもらって、本を売り、文章指導をしていてもらいたい気もしますが(笑)。
落合
いやいや(笑)。
―――
本日はお忙しいところありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします。

※1 2016年8月16日付毎日新聞一面コラム「余録」。落合さんが執筆を担当した回で、百年書房が取材され紹介された。
※2 2017年12月25日付東京新聞裏一面TOKYO発「本と読者、もっと身近に 書店が開く出合いのページ」でReadin' Writin'落合さんのライティング指導が紹介された。

棚

店内の一角には百年書房の本も扱われている(ちょっとだけ)。

Readin' Writin'内観

もともとは倉庫だった場所を改装した、Readin' Writin'店内の様子。

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